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研究内容

ナノ空間に閉じ込めた可視光で水分解・水素発生を高効率化 —従来の10倍以上の効率を実現し,再生可能エネルギーの有効利用に大きく貢献—

掲載日:
グリーンフォトニクス研究分野

ポイント

  • 厚さ30ナノメーター(毛髪の5000分の1)の空間に可視光を閉じ込められる光電極の開発に成功。
  • 光閉じ込め機能により全可視光の85%以上を効率良く吸収できることを検証。
  • 光閉じ込め機能のない従来の電極と比べ,10倍以上の効率で光エネルギーを化学エネルギーに変換。

概要

北海道大学電子科学研究所の三澤弘明教授らの研究グループは,厚さ30ナノメーターの空間に可視光を効率的に閉じ込める光電極の開発に成功しました。

厚さ30ナノメーターの半導体(酸化チタン)を金ナノ微粒子と金フィルムでサンドウィッチして金ナノ微粒子側から光を入射することにより,金フィルムが鏡として働き,全可視光の85%以上の光が酸化チタン層に閉じ込められ,金ナノ微粒子により吸収されます。金ナノ微粒子は,ステンドグラスが赤色に発色する原因となる局在プラズモン共鳴と呼ばれる現象を示し,ある特定の色(波長)を吸収したり散乱したりします。

金ナノ微粒子が光を吸収すると金の中の電子が高いエネルギー状態となり,酸化チタン等の半導体に電子を与え,高い還元力を持った電子が水素イオンを還元して水素を,残った電子の抜け殻(正孔)が強い酸化力により水を酸化し酸素を発生させます。しかし,半導体基板上に金ナノ微粒子を一層付着させるだけでは,基板平面内の微粒子密度をいくら高くしても金ナノ微粒子に光を十分吸収させることは困難でした。

本研究成果の優れた点は,1)プラズモンと酸化チタン層内に閉じ込められた可視光が強く相互作用して一体となった新しい状態を創ると,可視光の幅広い波長の光を効率的に吸収させることができることを見出したこと,2)これにより,閉じ込め機能のない電極と比べ10倍以上の効率で光エネルギーを貯蔵可能な化学エネルギーに変換できたことです。極めて少ない物質量で再生可能エネルギーを有効に変換でき,サステイナブル社会の実現への大きな貢献が期待されます。

本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金特別推進研究(18H05205)により推進されました。なお,本研究成果は,英国時間2018年7月30日(月)公開のNature Nanotechnology誌(電子版)に掲載されました。

金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム基板の略図(半透明な酸化チタン層に光が閉じ込められる)

【背景】

サステイナブル社会の実現に向け,無尽蔵とも言える太陽光に含まれる可視光を極めて少ない物質量で効率よく利用できる革新的太陽電池や人工光合成システムの開発が強く求められています。

三澤教授の研究グループは,「光子の有効利用」という概念を提唱し,金属ナノ微粒子が示す光アンテナ機能や,それに伴って生成するプラズモン増強場を利用した光化学反応の高効率化に関する研究を展開してきました。最近では,光アンテナ機能を用いた太陽電池や人工光合成などの太陽光エネルギー変換に関する研究を推進しています。これまで,酸化チタンなどの半導体基板上に局在プラズモン共鳴を示す金属ナノ微粒子を付着させることにより,可視・近赤外光を電気エネルギーに変換できること(2010年),金ナノ微粒子/酸化チタン基板表面から水の酸化的分解に基づいて酸素が発生すること(2013年),プラズモン誘起水分解により酸素と水素を化学量論的に発生させること(2014年),さらに同様の原理を用いて空中窒素を還元しアンモニアを光合成することが可能であること(2014年)を明らかにしてきました。

しかし,金ナノ微粒子を半導体基板上に単層付着させる従来の方法では,局在プラズモン共鳴である特定の波長の光に限られ,降り注ぐ太陽光の大部分は光吸収に寄与することができず,「光の有効利用」という観点では不完全でした。金ナノ微粒子のサイズを大きくすることにより光の捕集効率は高くなりますが,光散乱の寄与も大きくなり根本的な解決には至りません。したがって,幅広い波長域に高い光吸収を発現させる新しい概念の構築と,その概念を具現化する作製技術の開発が強く求められてきました。

【研究手法】

1ページ目の図に示すようにガラス基板上に,100 ナノメーターの厚みの金フィルムを乗せ,その上に酸化チタン層を任意の厚みで成膜した後,酸化チタン/金フィルム上に金ナノ微粒子(平均粒形12 ナノメーター)を配置しました。作製した金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム構造上にさらに7 ナノメーターの厚みの酸化チタンを上乗せすることにより,酸化チタン層に金ナノ微粒子を半分ほど埋め込めました。透過・反射スペクトル測定に加えて,既報の光電気化学計測を用いてプラズモン誘起光電変換や水分解反応を行い,作製した金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光電極の性能を評価しました。

【研究成果】

図1aに,金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム構造の写真を示します。また,比較として従来の酸化チタン層に金ナノ微粒子を付着させただけのもの(金ナノ微粒子/酸化チタン),金フィルムに酸化チタンを成膜しただけのもの(酸化チタン/金フィルム)も図1bと図1cに示しました。

金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム構造(1a)は,真っ黒で,裏紙の文字が見えません。これは,光がほとんど反射されていない(=光の吸収率が高い)ことを表します。一方,従来の酸化チタン層に金ナノ微粒子を単一層付着させたもの(1b),金フィルムに酸化チタンを成膜しただけのもの(1c)は,それぞれ裏紙の文字が見えたり,金フィルムによる光の反射で金色に見えたりしています。

図2aに金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム基板と金ナノ微粒子/酸化チタン基板の吸収スペクトルを示します。金ナノ微粒子/酸化チタン基板は局在プラズモン共鳴に基づく単一のピークしか観測されていませんが,金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム基板では2つのピークに分裂し,その2つのピーク波長では共に98%に及ぶ高い光吸収率を示すこと,そして2つのピークに分裂することにより,可視光の幅広い波長域で光を強く吸収する光吸収帯が得られました。

本研究では,スペクトルが分裂し,高い光吸収率が得られるメカニズムも明らかにしています。酸化チタン/金フィルムに光が入射すると,1ページ目の図に示すように金フィルム表面で光は反射し,その反射波が酸化チタン層/空気界面で再び反射(一部外側に染み出します)されることにより,酸化チタン層の厚みに応じて特定の波長の光が閉じ込められます。これはファブリ―・ペロー共振器と呼ばれ,半導体レーザーを発振させるための光共振器としても用いられています。

本研究では,片面だけ金フィルムが成膜されているため金側でのみ反射の際に反射光の位相(波の形)が変化し,酸化チタン層が約30 ナノメーターの厚みでも波長600-700ナノメーター付近の光が閉じ込められる光共振器となります。この光共振器のモードが局在プラズモン共鳴モードとカップリングすることにより,図3に示すように2つのハイブリッドモード(P+とP)が形成されることが酸化チタンの膜厚依存性の実験や電磁場シミュレーションから明らかになりました。本現象は,モーダルストロングカップリングと呼ばれる物理現象の一つで,プラズモンと光共振器内に閉じ込められた光のモードが結合して一体となったような状態のことを指します。したがって,スペクトルの分裂だけではなく,入射した光がほとんど漏れずに金ナノ微粒子に吸収されます。

この金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム基板を電極として既報の光電気化学測定を行うと,図2bに示すように吸収スペクトルと同様に幅広い波長域において光電流が観測されました。金フィルムを成膜していない金ナノ微粒子/酸化チタン電極と比較すると,約11倍高い光電変換効率が得られています。

特筆すべき点は,入射光の光強度に対して観測された光電流量を示す外部量子収率が11倍増大することが明らかになっただけではなく,外部量子収率を光の吸収量で規格化した内部量子収率(金ナノ微粒子に吸収された光量に対する電流量)も本構造体を用いるとピーク波長で比較して約1.5倍増大することが明らかになった点です。超高速分光により局在プラズモン共鳴の位相緩和ダイナミクスが変化することを計測により確かめており,モーダルストロングカップリングにより素過程が変化し,内部量子収率の向上に寄与したものと結論しました。

【今後への期待】

今回発明した光電極により,水の光電気分解による高効率な水素発生が確認されました。強調すべきは,特殊な反応系の要素技術を開発したのではなく,局在プラズモン共鳴を示す金属ナノ構造体として可視域の幅広い波長で高い光吸収効率と光電場増強を示す究極の構造を明らかにしたことです。

金ナノ微粒子が示す局在プラズモン共鳴は,すでにインフルエンザの簡易検査や妊娠検査薬などの発色に利用されています。また,最近では太陽電池や人工光合成の光アンテナとして応用が期待されています。本研究成果は,プラズモン太陽電池や人工光合成系(水分解・アンモニア合成・二酸化炭素固定など)などの光エネルギー変換系のアンテナのみならず,局在プラズモン共鳴を利用した種々の光化学反応系や化学センサーの高感度化にも応用が期待されます。

論文情報

論文名 Enhanced water splitting under modal strong coupling conditions(モーダルストロングカップリングによる水分解反応の増強)
著者名 石 旭1,上野貢生1,押切友也1, 孫 泉1, 笹木敬司1, 三澤弘明1,2 (1北海道大学電子科学研究所,2台湾国立交通大学応用化学科)
雑誌名 Nature Nanotechnology
DOI 10.1038/s41565-018-0208-x
公表日 日本時間2018年7月31日(火)午前0時(英国時間2018年7月30日(月)午後4時)(オンライン公開)

お問い合わせ先

北海道大学電子科学研究所 教授 三澤弘明(みさわひろあき)
TEL 011-706-9358
FAX 011-706-9359
メール misawa@es.hokudai.ac.jp
URL http://misawa.es.hokudai.ac.jp/

配信元

北海道大学総務企画部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
TEL 011-706-2610
FAX 011-706-2092
メール kouhou@jimu.hokudai.ac.jp

【参考図】

図1.(a)金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム基板,(b) 金ナノ微粒子/酸化チタン基板,(c) 酸化チタン/金フィルム基板の写真
図2.(a)金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム基板及び金ナノ微粒子/酸化チタン基板の吸収率スペクトル,(b)金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム電極及び金ナノ微粒子/酸化チタン電極による光電変換効率の作用スペクトル
図3.モーダルストロングカップリングによるハイブリッドモード形成を示すエネルギーダイアグラム
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