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研究内容

引っ張ると白い蛍光を出すゴムの開発に成功 —材料が受けるダメージの可視化に期待—

掲載日:
スマート分子材料研究分野

ポイント

  • 伸縮により白色蛍光のON/OFFを瞬時に何度でも切り替えるゴム材料の開発に成功。
  • 蛍光を発する部分を変えても,同じメカニズムでほぼ同じ刺激応答性を獲得できることを実証。
  • 共有結合を切らずとも機械的刺激により発光特性が変化する「超分子メカノフォア」の分野を開拓。

概要

北海道大学電子科学研究所の相良剛光助教(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者),玉置信之教授,スイス フリブール大学Adolphe Merkle InstituteのChristoph Weder(クリストフ ウェダー)教授らの研究グループは,伸縮により白色蛍光のON/OFFを瞬時に可逆的に切り替えるゴム材料の開発に成功しました。

最近,主に高分子化学の分野で,力(機械的刺激)によって共有結合が切断され,色変化,触媒作用,化合物の放出といった様々な応答を示す「メカノフォア」と呼ばれる分子骨格が着目されています。しかし既存のメカノフォアは共有結合を切断する必要があるため,可逆性に乏しい等の問題がありました。このような背景を踏まえ,研究グループは,超分子化学の分野で長年研究されてきた,インターロック分子の一つであるロタキサンに着目し,共有結合を切断する必要のない「超分子メカノフォア」の開発を行ってきました。今回の報告では,青色,緑色,橙色の蛍光団(蛍光を発する部分)を用いたロタキサン型超分子メカノフォアを開発し,さらにポリウレタンに導入することで,伸縮に応答して各蛍光色が瞬時,かつ可逆的に何回でも繰り返しON/OFFスイッチするゴム材料を開発しました。これにより,蛍光団を変えても同じメカニズムで類似の機械的刺激に対する応答性を獲得できることを実証しました。さらに,これら三種のポリウレタンを適切な割合で混合することにより,白色蛍光のON/OFFスイッチを示すゴムを実現しました。このような材料は,様々な材料が受けるダメージの可視化などへの応用が期待でき,今後の本分野の発展に大きく寄与すると考えられます。

なお,本研究成果は,日本時間2019年4月24日(水)午後9時(アメリカ東部夏時間2019年 4月24日(水)午前8時)公開のACS Central Science誌にオンライン版として掲載されました。

本研究は,JST戦略的創造研究推進事業さきがけ「光の極限制御・積極利用と新分野開拓」(研究総括:植田憲一)における「ロタキサン型メカノプローブの創製とメカノバイオロジーへの応用」(研究者:相良剛光)(No. JPMJPR17P6),人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス,公益財団法人新世代研究所 研究助成,公益財団法人江野科学振興財団 田中ゴム科学技術賞等による支援を受けて行われました。


【背景】

力(機械的刺激)を受けて,見た目の色や発光(蛍光)特性変化を示すような材料は,材料の受けるダメージや加えられている力を簡単に可視化・評価できるため,様々な形での活用が期待されています。特に最近,主に高分子化学の分野において,機械的刺激を受けて色変化を示す「メカノフォア」と呼ばれる分子骨格が盛んに研究されています。例えば,フォトクロミック色素*1としても有名なスピロピランは,最初はほとんど無色に近いですが,機械的刺激を受ける(導入した高分子鎖を介して引っ張られる)と中央の共有結合が切れてメロシアニンと呼ばれる分子構造に変化し,着色します(図1)。しかし,共有結合を切断するには比較的大きな力が必要であり,瞬時にかつリバーシブルに,見た目の色や発光(蛍光)特性を変化させることは,一般には難しいと考えられます。また,このようなメカノフォアを狙って分子デザインすることは困難であり,思いのままの色変化を狙って達成することも難しい課題でした。

【研究手法】

超分子化学の分野で長年研究されてきたロタキサン*2に着目し,よく知られた青色・緑色・橙色の三種類の蛍光団を用いて,共有結合を切断せずとも蛍光特性が変化する三種の「超分子メカノフォア」を開発しました(図2左)。それぞれのロタキサン型超分子メカノフォアをポリウレタンに導入し,さらに混ぜ合わせることによって,機械的刺激を受けると白色蛍光を瞬時に,かつ可逆的にON/OFFスイッチするゴム材料を開発しました(図2右)。

【研究成果】

三種類のロタキサン型超分子メカノフォアを合成しました(図3)。ロタキサンは蛍光団を持つ環状分子,蛍光団からの蛍光を消光するための消光団とストッパー部位を持つ軸分子の二分子で構成されます。大きなストッパー部位のおかげで,環状分子は軸分子から遠くに離れることはできません。今回開発したロタキサン型超分子メカノフォアのメカニズムは,図2左に示した通りです。まず初期状態では,消光団が環状分子に包接され,消光団と蛍光団が隣接することで蛍光団からの蛍光が消光されます。しかし,いったん高分子鎖を介して機械的刺激がメカノフォアに伝達されると,環状分子がスライドして消光団から離れ,蛍光団からの強い蛍光が観察されるようになります。共有結合を切断しているわけではないため,加えられている機械的刺激をなくすと,すぐに蛍光団が消光団の近くに戻り,蛍光は再び消光されます。今回の研究では導入する蛍光団として,拡張されたピレンやアントラセン,そしてレーザー色素としてよく知られているDCM色素を用いました。これらの蛍光団は,365nmの励起光照射下,強い青色蛍光,緑色蛍光,橙色蛍光(周囲の環境に依存して赤色蛍光にもなる)を示します。ロタキサンを形成すると,溶液中では蛍光団からの蛍光が消光団によって完全に消光されることが明らかとなりました。それぞれの超分子メカノフォアをポリウレタンに共有結合を介して導入し,溶媒キャスト法*3によりゴム特性をもつフィルムを作製しました。得られたフィルムは伸縮により瞬時,かつ可逆的に蛍光をON/OFFスイッチすることがわかりました(図4)。これにより,蛍光団を単純に変更することで,機械的刺激に応答してスイッチする蛍光の色を簡単に変更できることが実証されました。さらに,得られた三種類のポリウレタンを質量比で8:16:5の割合で混ぜることにより,白色蛍光をON/OFFスイッチするゴム材料の開発に成功しました(図5)。フィルムを延伸することにより,青色,緑色,橙色の発光強度が上昇していることがスペクトル測定により明らかとなりました。これまでに白色発光を示す有機材料は多数報告されていますが,機械的刺激で白色蛍光をON/OFFスイッチする材料は今回のゴム材料が初めての例となります。

【今後への期待】

今回の研究により,ロタキサンをモチーフとして用い,よく知られた蛍光団を変更するだけで,狙った蛍光色を簡単にON/OFFスイッチすることができる「超分子メカノフォア」が得られることが実証されました。このような材料は機械的刺激を可逆的かつ鋭敏に検出できるため,様々な材料におけるセンサーや,材料の受けるダメージの可視化・定量評価などへの応用が期待できます。

論文情報

論文名 Rotaxane-based Mechanophores Enable Polymers with Mechanically Switchable White Photoluminescence(ロタキサン型メカノフォアを用いた機械的刺激に応答する白色発光ポリマー)
著者名 相良剛光1,2,Marc Karman3,関 淳志1,Mehboobali Pannipara1,4,玉置信之1,Christoph Weder31北海道大学電子科学研究所,2JSTさきがけ,3フリブール大学 Adolphe Merkle Institute,4キングハーリド大学)
雑誌名 ACS Central Science(化学の専門誌・オープンアクセス誌)
DOI 10.1021/acscentsci.9b00173
公表日 日本時間2019年4月24日(水)午後9時(アメリカ東部夏時間2019年4月24日(水)午前8時)(オンライン公開)

お問い合わせ先

<研究内容に関すること>

北海道大学電子科学研究所 助教 相良剛光(さがらよしみつ)
TEL 011-706-9350
FAX 011-706-9357
メール sagara(at)es.hokudai.ac.jp
URL

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構戦略研究推進部グリーンイノベーショングループ 中村幹(なかむらつよし)
TEL 03-3512-3525
FAX 03-3222-2066
メール presto(at)jst.go.jp

配信元

北海道大学総務企画部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
TEL 011-706-2610
FAX 011-706-2092
メール kouhou(at)jimu.hokudai.ac.jp

科学技術振興機構広報課(〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3)
TEL 03-5214-8404
FAX 03-5214-8432
メール jstkoho(at)jst.go.jp

【参考図】

図1.代表的なメカノフォアとしてよく知られているスピロピラン。着色させるには共有結合を切断する必要があり,瞬時に元の状態に戻すことは難しい。
図2.白色蛍光をON/OFFスイッチする,今回開発したゴム材料の概念図。青色・緑色・橙色の蛍光を出す蛍光団を組み込んだ三種類の超分子メカノフォアを作製し,それぞれポリウレタンに導入した後,混ぜることで目的の白色蛍光をON/OFFスイッチするゴム材料が得られる。
図3.三種類のロタキサン型超分子メカノフォアの分子骨格。
図4.それぞれのメカノフォアを導入したフィルムの機械的刺激に対する応答性。それぞれ伸ばすことによって蛍光強度が上がり,縮めると蛍光が観察されなくなることがわかる。
図5.白色蛍光をON/OFFスイッチするゴム材料。(a)蛍光強度が延伸に伴って上昇する様子。(b)実際の蛍光スペクトル変化。青色,緑色,橙色の各波長領域の蛍光強度が延伸率の上昇と共に上がっているのがわかる。

【用語解説】

*1 フォトクロミック色素 … 光を吸収することで分子構造が変化し,吸収色や蛍光特性が変化する色素のこと。

*2 ロタキサン … 輪っかのような環状分子と棒のような軸分子からなるインターロック分子(いくつかの部品が機械的に組み合わされた分子)の一つ。環状分子と軸分子は共有結合で連結されているわけではないが,軸分子に導入された大きなストッパー構造により軸から離れることができない。

*3 溶媒キャスト法 … 合成した高分子を溶ける溶媒に溶かして溶液としたのち,適切な基板や容器の上に滴下し,溶媒を自然に留去することでフィルムを得る方法のこと。

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