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TEL.011-706-2596

〒060-0812 札幌市北区北12条西6丁目
北海道大学中央キャンパス総合研究棟2号館4階205号室

これまでの研究の概要


性フェロモンを放出するメスゴキブリ自身の脳内にも性フェロモン情報処理専用の神経回路がある
 メスのワモンゴキブリは性フェロモン(periplanone-Aと-B)を放出してオスを誘引し、求愛や交尾行動を発現させる。性フェロモンはオス触角表面の感覚子で検出された後、脳内触角葉のA糸球体とB糸球体(糸球体:一次嗅覚中枢)に情報として伝わり、そこで投射ニューロンへと伝達される。この投射ニューロンによって性フェロモン情報は高次中枢の前大脳へと伝わり、そこで情報処理され行動発現へとつながる。このオス脳のAとB糸球体と相同な2つの糸球体がメス脳にも存在することは知られていたが、それらがどのような匂い情報処理に関わっているのかは不明であった。
そこでこれらメス脳内神経回路を生理学的、形態学的に調べた。メスのB糸球体とそれに接続する投射ニューロンはオスよりもサイズは小さいが基本形態は良く似ていた。触角への様々な匂い刺激を行った時、これらメス投射ニューロンは性フェロモン特異的な興奮性の応答を示した。
本結果は、ゴキブリ性フェロモンはメスからオスへのシグナルだけでなく、メスゴキブリ集団内の行動や内分泌などに影響する可能性を示唆した。
Pheromone detection by a pheromone emitter: a small, sex pheromone-specific processing system in the female American Cockroach. Nishino, H., Iwasaki, M., Mizunami, M. Chem. Senses 36, 260-271 (2011).


オスコオロギの求愛行動は相手体表にある飽和脂質によって、喧嘩は相手のオスの匂いによって引き起こされる

 オスのフタホシコオロギは同種メスが近づくと求愛をはじめ、オスに出会うと喧嘩をはじめる。これらの行動は触角で相手に触れることで発現する。このことからコオロギ体表に行動発現のための鍵物質があると考え、体表物質を化学分析し、それらの生物検定を行った。
メス体表から抽出した飽和脂質をオスコオロギの触角に提示するとオスは求愛を開始した。この飽和脂質はオスの体表にも存在し、オスから抽出した飽和脂質を提示してもオスコオロギは求愛を開始した。しかし、オス体表には不飽和脂質があり、これはメス体表には存在しなかった。この不飽和脂質を提示すると、オスの求愛行動は抑制された。オスコオロギから発せられる匂い物質を空気捕集し、それをオスコオロギの触角に提示すると、喧嘩の時に示す相手を威嚇する行動が発現した。
本結果は、雌雄関係なくコオロギ体表にはオスコオロギへの求愛シグナルが存在するが、オス体表にはオス同士の求愛を抑制するための別シグナルが存在することを明らかにした。また、オス同士の喧嘩には、これまで知られていた触角の接触による機械的シグナルの他に、相手の匂い物質も関係していることを明らかにした。
Cuticular lipids and odors induce sex-specific behaviors in the male cricket Gryllus bimaculatus. Iwasaki, M. and Katagiri, C. Comp. Biochem. Physiol. A 149, 306-313 (2008).


喧嘩に負けたオスコオロギはその後一定期間、出会う相手の攻撃性に合わせ行動を選択する

 2匹のオスコオロギが喧嘩をすると勝者/敗者の順位が形成される。この優劣順位については勝者の攻撃性の変化について多くの研究がなされてきた。本研究では敗者の行動に注目して実験を行った。
勝者コオロギは喧嘩後、出会う相手すべて(勝者、敗者、喧嘩未経験)に対して攻撃した。しかし、敗者コオロギは自分が負けた相手、他のペアの喧嘩の勝者、喧嘩未経験個体など攻撃的な相手に対して逃避行動を示した。しかし、他のペアの敗者つまり逃げる相手は攻撃した。この敗者の喧嘩後出会う相手に合わせた喧嘩から逃避への行動選択は、喧嘩後約30分間続いた。しかし、15分間隔で3回繰り返し同じ勝者に負けると、敗者の勝者に対する逃避行動が3時間後でも観察された。
本結果は勝者/敗者の順位が維持には、経験依存的に期間が延長される敗者コオロギの出会う相手の攻撃性に合わせた行動選択が重要であることをはじめて示した。
Effects of previous experiences on the agonistic behaviour of male crickets Gryllus bimaculatus. Iwasaki, M., Delago, A., Nishino, H., Aonuma, H. Zool. Sci. 23, 863-872 (2006).


敗者コオロギの喧嘩から逃避への行動選択には、脳内一酸化窒素の濃度変化が重要な役割を果たしている

 喧嘩後の敗者コオロギの喧嘩から逃避への行動選択に関係する脳内神経伝達物質、特に動物の行動や記憶に影響すると報告されている一酸化窒素(NO)について行動薬理学的実験を行った。
喧嘩15分後、敗者コオロギは勝者に対して逃避行動を示す。しかし、NO合成阻害剤あるいはNO除去剤を脳周辺に注射し、あらかじめ脳内NO濃度を下げておくと、喧嘩15分後でも敗者は勝者と喧嘩した。また、神経伝達物質としてのNOの標的の1つであるcGMP合成系を阻害しても敗者は勝者と喧嘩した。しかし、NO供与剤の注射によってあらかじめ脳内NO濃度を上げておくと、敗者コオロギは一度の敗北経験で3時間後でも逃避行動を示した。
本結果は、喧嘩敗北後のオスコオロギの喧嘩から逃避への行動選択には、脳内NOの一定の濃度が重要であることを明らかにした。さらに敗者の逃避期間の延長には、経験依存的に脳内NO濃度が上昇していることを示唆した。
Effects of NO/cGMP signalling on the behavioral change in subordinate male crickets, Gryllus bimaculatus. Iwasaki, M., Nishino, H., Delago, A., Aonuma, H. Zool. Sci. 24, 860-868 (2007).


甲殻類の体節運動をモニターする伸張受容器は、それぞれの種の適応行動に合わせて機能分化している

 ザリガニなど十脚甲殻類の腹部各体節には、体節運動をモニターする伸張受容器MROが存在する。このMROは2つの受容器細胞と、それぞれが接続する2本の受容器筋、そして受容器細胞の活動をGABAによって抑制する付属神経から構成される。体節が曲がることによって受容器筋が引き延ばされると、2つの受容器細胞がそれぞれ速順応型、遅順応型の新傾向とを示す。一方、前胸部には受容器筋を持たず、1つの遅順応型の受容器細胞からなる伸張受容器N-cellが存在する。十脚類の胸部は各体節が融合し腹部のような可動性が失われている。そのためMROが退化してN-cellとなったとこれまで言われてきた。本研究は、伸張受容器の神経進化を明らかにするため、可動性胸部を持つ3種の等脚甲殻類オカダンゴムシ(陸上棲)、フナムシ(海岸棲)、オオグソクムシ(深海棲)の行動と胸部伸張受容器の性質について比較研究を行った。
オカダンゴムシは胸部も含む体の全体節をゆっくりと運動させ球状に丸まった。フナムシでは胸部前方体節をあまり動かさないため丸まることはできないが、胸部後方体節と腹部を素早く運動させて遊泳した。オオグソクムシは頭、胸、腹部の全体節をゆっくりと運動させ丸まり、さらに、頭部と胸部前方体節を力強く上下運動させて海底泥に巣穴を掘った。このように等脚類の胸部は可動性であるが、前胸部にはMROではなくN-cellが存在した。しかし、オカダンゴムシとオオグソクムシのN-cellには受容器筋様の構造が分化し、さらにオオグソクムシのN-cellの樹状突起には複雑な分枝が見られた。一方、オカダンゴムシとオオグソクムシの胸部MROは2つの受容器細胞はいずれも遅順応型であったが、フナムシの胸部MROは速、遅順応型の2つの応答が記録された。
本結果は、N-cellはMROの退化型ではなく、胸部に固有に存在する伸張受容器であることを示唆した。そして、胸部伸張受容器の形態(受容器筋や樹状突起の分枝)は、胸部体節の位置情報(つまり曲がり具合)の検出のために進化し、受容器細胞の応答特性(遅順応型か速順応型か)は、体節運動の速さの検出のために進化している可能性も示した。
1) Functional role of the N-cells as anterior thoracic stretch receptors in a terrestrial isopod (Armadillidium vulgare). Niida, A., Iwasaki, M. and Yamaguchi, T. Israel J. Zool. 44, 487-500 (1998).
2) Functional organisation of anterior thoracic stretch receptors in the deep-Sea isopod Bathynomus doederleini: Behavioural, morphological and physiological studies. Iwasaki, M., Ohata, A., Okada, Y., Sekiguchi, H. and Niida, A. J. Exp. Biol. 204, 3411-3423 (2001).
3) Morphological and physiological development of anterior thoracic stretch receptors in two isopods, Armadillidium vulgare and Ligia exotica. Iwasaki, M., Ohata, A. and Niida, A. J. Comp. Physiol. A 193, 741-751 (2007).

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