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電子研について

1998年外部評価報告書

平成10年3月

Ⅰ 外部評価委員名簿

評価委員( 5 名)

(敬称略 50音順)
東北大学電気通信研究所教授(所長) 沢田 康次
東洋大学長 [元応用物理学会長、元東京大学工学部長] 菅野 卓雄
学位授与機構長 [元東京工業大学長、元日本学術会議副議長] 田中 郁三
東京医科歯科大学医用器材研究所教授 [前エムイー学会長、元東京医科歯科大学医用器材研究所長] 戸川 達男
北海道工業大学電気工学科教授 [元電々公社横須賀電気通信研究所長、元ソニー情報通信研究所長] 松田 亮一

Ⅱ 外部評価資料一覧

  1. 電子科学研究所概要
  2. 電子科学研究「研究活動」 (平成4~6年度版,平成7~8年度版)
  3. 電子科学研究「研究活動」補遺
  4. 電子科学研究 (平成5,6,7,8年版)
  5. 電子科学研究所 技術部 技術報告集 (平成3,5,7年版)
  6. 研究分野等個別評価資料 (全18冊)

Ⅲ 評価と提言

 電子が関与している科学という観点で、新しく「電子科学」という概念を創出し、学際性,階層性のもとに研究対象の位置付けを行ない、教官の流動性も高く、活発な研究を行なっている点が高く評価できる。
 また本外部評価を依頼するに先立って自己点検を行ない、その結果に対する自己評価の結果が報告された点は特に評価できる。猶個々の研究分野の自己点検・評価に何を研究目標とし、それがどの位達成されたかの記載が不十分なものもあり、当初目標がどの程度達成されたかを自己点検・評価し将来計画の基礎とする必要がある。

1.理念

「電子科学」という新しい理念を物質、情報、システムの学際性、材料、素子、生体の階層性の観点から明確に確立しており、光と電子の相互作用および生体や人間に学び、より柔軟なシステムを目指して、新しい「エレクトロニクス」の基盤を築くという理念は明快かつ野心的で高く評価される。また研究対象を物質では素子から材料・システムまで、特に光技術の応用に重点を置き、生物では分子から生体・脳までに階層化することにより、ユニークな研究が幅広く展開されている点が優れている。
敢えていえば言葉尻を捕らえる感もあるが、「学際性」(inter-disciplinary)とは既存の学問体系(discipline)を基盤とするものであり、trans-disciplinaryともいうべき従来の学問体系とは全く異なる新分野の開拓の可能性も視野の中に入れておくのがよいのではないかと思われる。

2.組織と管理・運営

大部門の運営は柔軟に行われており、部門内の協力が積極的に行われていること,実質的に部門を越えた人事・運営が行われていること、また部門間、学内他学部と共同研究も促進されていることをみると、大部門制に基づく研究所の運営として成功している。
猶、現在国立大学の運営に開し参与等の制度を利用し、他大学研究機関、産業界、地域社会の意見を反映する方策が検討されていることに鑑み、この点も電子科学研究所として検討されることが期待される。

3.大学院

大学院の部局化に伴い、研究所教官が専攻長となることがなくなった等、大学院運営の重心が学部に移り、学部・大学院の一貫教育ということで、北大学部よりの大院学生の確保が困難になってきた事は理解されるが、この問題は研究所における大学院学生確保の視点ではなく、学部の大学院予備校化の排除、開かれた大学院の建設等、積極的に大学院を発展させる視点からの検討が期待され、電子科学研究所が、この点で主導的役割を果たすことが望まれる。

4.教官人事

教授、助教授、助手の選考に年齢制限の目標、昇任、転出のチェックポイントが設けられ、事実上教官の任期性が実施されており、その結果北大出身者に偏らず教官の流動性が高く、若い層が厚くなり独創的研究が活発に行われている点は、極めて高く評価される。今後、外国人教官,女性教官の数を増すように努力されることが望まれる。特に外国人教官に対しては、研究所においては日本語能力は必ずしも必要ではなく、英語等外国語での意思の疎通ができれば良いと考えられる。

5.研究支援体制

電子計測開発施設を附属施設として有し、高度の技術を持つ機械工作室、ガラス工作室を備え、その若手スタッフの育成努力も払われており、図書館も整備されている等、研究支援体制は整っているといえる。

6.予算、設備

予算は国費の経常経費については国の基準で定められるので、評価の対象にならないが、文部省の科学研究費の採択率、金額も規模の大きな国立大学の中で平均的といえる。
今後研究遂行上必要があれば、現在取得者が2人の教官である新エネルギー・産業技術総合開発機構、日本学術振興会、科学技術振興事業財団等からの大型研究費の導入も視野の中に入れるべきである。建物が老朽化し、研究室面積も現在の活発な研究活動を行なうには不十分で、飽和状態にあることは国立大学に共通した問題である。

7.研究活動

研究の目標設定がよく行われており、極めて活発で野心的な研究が行われている。研究成果も多く発表され、地域の特色に適合した研究と共に、国際的に高く評価されているものが少なくない。「北海道にある研究所であるからこそ、中央の情報に振り回されないで10年~20年先を目指した研究ができる」という貴研究所の教授の見解は傾聴に値し、短期的な研究評価ではなく、長期的な研究計画、評価に留意すべきことは言うまでもない。

8.国際交流

現在でも国際交流は活発に行われているが、現在の活発な研究活動をみると、更に国際交流を活発化する余地がある。外国人研究者、留学生の受け入れ、国際共同研究等のための若い教官の長期の外国派遣、国際会議の主催等が有効な方策であろう。

9.教育、社会活動

大学院教育に関し博士課程修了時での学位取得率が工学研究科学生の場合、93%であること、修士課程、博士課程を合わせて100名以上の大学院生の教育を行なっていることは十分に評価される。
特に博士課程学生は有力な研究室構成員であることから、博士課程学生増が望まれるが、大学院部局化に伴う研究所教官の指導する学生の減、及び研究所教官の学部教育への関与については、北大における他研究所にも共通の課題と思われるので、電子究所がこの問題の検討に主導的役割を果たすことが期待される。
社会活動は地域への貢献も行われており、東京にある大学の教官の社会活動に比較すれば少ないが、地域性を考えれば標準的であり、教官が研究に専念できる環境にあるといえる。今後ホームページの充実も含め、研究成果を社会に積極的に伝える努力が望まれる。

10.将来展望

広義のエレクトロニクスとバイオ・サイエンスの組合せというユニークな研究を育てる環境が育っており、世界をリードする研究、即ち新しい研究分野の開拓と研究成果が生まれることが期待されるので、若手研究者の確保、研究所の組織・運営、研究費の確保に十分な配慮がなされることが望まれる。
猶、応用を目的とする開発的研究についてはその研究目標を数値化して示すことが好ましい。

11.研究所への提言

本研究所は専門の異なる研究者の集団であるので、異なる専門の研究を理解して正当に評価すると共に、自分の研究を相手に伝える努力が、研究所としての研究活動を更に活発にするために必要である。
優れた研究が本研究所で行われていながら、それが社会的に認知されていないものもあり、インターネットの活用、東京等札幌以外の場所でのシンポジウムの開催、国際シンポジウムの開催等対外的な広報活動にも力を注いで欲しい。
電子科学研究所としては理念を更に具体的にし10年~20年後にどんな成果を期待しているのか、どんな新分野の開拓が期待できるかを夕ーゲットとして掲げることにより、特に若い研究者の活力を引き出すことに役立つのではないかと思われる。

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