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電子研について

2015年外部評価報告書

平成27年10月

Ⅰ 外部評価委員名簿

評価委員( 5 名)

(敬称略 50音順)
大阪大学 ナノサイエンスデザイン教育研究センター 教授 伊藤 正
東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター 客員教授 熊野 勝文
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 理事 郷 通子
台湾国立交通大学 応用化学系 分子科学研究所 講座教授 増原 宏(委員長)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 評価部 首席評価役 八瀬 清志

Ⅱ 外部評価資料一覧

  1. 外部評価資料
  2. 研究活動(自己点検評価報告書)
  3. 電子科学研究所概要

Ⅲ 評価と提言

1.これまでの研究活動について

電子研の研究活動は、先端的な境界領域の研究を担っているナノテク関連のハード的な研究と、数理科学に代表されるソフト的な研究がある。ナノテク関連装置の充実度は国内的にもきわめて高く、北大の先端科学技術研究開発の屋台骨としての役割を果たしている。また、附属グリーンナノテクノロジー研究センター、研究支援部ナノテク連携推進室およびニコンイメージングセンターを中心にその高いポテンシャルを活かしつつ、学外にもナノテク技術、イメージングのサービス事業も行い、日本国内から注目を集めている。ソフト面では、理工系はもちろん文系、医学系にも関連する複雑系の研究を展開してきている。その成果にたって、複雑化する社会を見通す突破力・変革力・俯瞰力を持った数学・数理科学を目標に掲げた附属社会創造数学研究センターを立ち上げるところまで来ている。

具体的には、電子科学をベースにした複合領域ナノサイエンスを主題に掲げ、過去数年間、光科学、物質科学、生命科学、数理科学の4研究部門と、附属グリーンナノテクノロジー研究センターの5研究部門で、研究を展開してきた。年間約120報の論文、300件前後の学会発表、国際会議の講演の30%は招待講演としてその基礎的な研究成果は表れている。論文数は飽和しているが、IFの高い雑誌に投稿する傾向が強いためと説明された。PIが退職し研究分野が入れ替わる時期であったため、研究予算はここ数年減少してきたが、本年度からほぼ歯止めがかかっている。基盤研究S、同Aを獲得しているほか、新学術、CRESTに参画しているメンバーも多く、一方、民間企業との共同研究を8社と行っており、年間1千万を超える共同研究が複数件ある。その研究活動は附置研究所の水準を十分越えている。

2.これまでの運営と人事について

特定の研究分野に偏ることなく、新たなプロジェクトを立ち上げることを意識して、外部研究機関から教授を選考してきたことは高く評価する。日本で最も原則に忠実かつ公平に人事を進めてきた研究組織で、多くの優秀な研究者を他研究機関に輩出してきた。北大に対しても、国内の関連研究分野へもその貢献はまことに大きい。しかしながら、これまでの人事は大学あるいは電子研が無くならないという前提に立っている。現在では大学を取り巻く環境は大きく変化しており、電子研がいつまでも同じサイズで存在できるとは限らない。したがって人事の流動性に加えて、電子研の次の10年、20年を考える、電子研の中核を担う人材の育成がきわめて重要である。この視点から見ると、現在の教授陣に内部昇格者が少なく、北大出身者が一人もいないということは、気がかりである。若手メンバーに電子研の将来に対する責任感を植えつけることはできないし、北大学部生を電子研に惹きつけることもできない。第三期中期計画を迎えるこの時期にあっては、今の人事方式に加えて後継者養成を可能にする工夫をする時期にきているのではないか。

3.大学附置研究所としての在り方

1.強化すべき学際領域の方向性
世界をリードしてきた日本の産業を取り巻く環境が変化しており、特に次世代の半導体分野では日本の貢献度が低い。このような状況で求められる技術は複数の研究領域を集約しなければ構築できないが、一旦構築に成功すれば新しい技術は半導体以外の広い産業分野に波及する。我が国の科学技術の現状から判断して、現在電子研が取り組んでいる学際領域の研究の推進は、今後ますます重要になるであろう。学際領域の研究は多くの研究者の参画を必要とするので、電子研が得意の、装置、測定法、手法、理論、シミュレーションなど方法論の開発とそれを支える概念の探索と構築に重点を置いて、多様な学際共同研究推進を組織的に図るのが望ましい。創成研究機構を活用するなどして、北大の科学技術研究の基盤をさらに強固に発展させる上で、電子研が主役を演ずることを期待する。

2.時代に即した適切な研究設定
文部科学省との意見交換に基づき、電子研のミッションは、「高度光ナノイメージング技術による物質・生命科学分野の融合研究など、国内外で活発な共同研究を推進する」と再定義がなされた。このミッションは、国内大学・研究所でふたつとない特徴ある研究を展開しようとしている現在の電子研の研究活動をよく表している。附属グリーンナノテクノロジー研究センター、附属社会創造数学研究センター(2015年4月発足)などに軸足を置き、光科学、物質科学、生命科学の各研究部門と協力する体制である。元より広い各研究部門をカバーすることはできず、他研究科、附置研究所などとの接点が生まれる協力、共同、協奏が必要不可欠である。これが可能になるような研究課題を設定していくことが、研究所として生き抜くために重要である。

3.大学の機能強化への貢献
電子研自身の研究活動は活発で、国内外から多くの研究者の訪問が絶えず、北大の研究組織としてはもっとも名の聞こえる研究所である。いわゆるvisibilityは極めて高い。研究支援部門としてのナノテク連携推進室、ニコンイメージングセンター、国際連携推進室は、電子研のアクティビティーをあげるだけでなく、北大のプレゼンスの向上に大きく貢献している。たとえば、第2期に導入したナノテク関連の大型設備の利用状況は全体としてゆっくり増加しており、特に学外の使用が増えている。ニコンイメージングセンターについても同様なことが言える。利用人数が大きく伸びており、すそ野が広がっている。開かれている大学の科学技術の先頭に立って走っていると言ってもよい。北大の科学技術研究開発のベース、融合研究のファーストランナーの役割を果たしていることをもっと主張してよい。北大本部にも電子研の貢献として、その研究実績と重要性を説明し理解を得ていきたい。

大学院教育については、博士後期課程進学者の減少、いい学生が集まらないなどの悩みがあるが、これは附置研究所に共通の悩みである。電子研は教育にも貢献しており、複数の研究科から院生を受け入れ、また講義や実験を分担している。また電子研らしさを活かした、ナノテク・ナノサイエンス、最先端光に関する講義を、全学教育総合科目、同一般教育演習、大学院共通講義として提供している。電子研は高い研究ポテンシャルを持ち、全国的にも研究ネットワークを持っているので、国内外への広がりをさらに促進することにより、電子研のために院生を集めるという自己利益のみならず、北大のための新しいトライアルを試みていくことができると考える。電子研のハード面とソフト面の強み(上述)を発揮した方法論開発と概念の探索と構築を行うがゆえの波及効果も期待できる、学部を持たないがゆえの国際化を目指した柔軟な取り組みが可能である、など電子研ならではの特徴を活かして、創意と工夫で全国から、アジアから院生を集めるプランを立てて欲しい。

4.若手・中堅研究者の育成方針
電子研ならでは、北大ならではの研究を前面に出して、日本だけでなく世界のトップになるための更なる努力が必要である。第一線にある教授は常に若い世代の研究者のモデルである。高い研究レベルを維持発展させ、世界に発信すれば、必ず人は集まってくると信じたい。若い人はそれをフォローしようとし、流れができるはずである。具体的には自分の仕事だけでなく、新学術領域などの多くの人が集まるプロジェクトをリーダーとして積極的に立ち上げてもらいたい。その期間中数十人の研究者が北大電子研を念頭に仕事をするわけで、その後の共同研究、人事にも大きく影響する。一方、若手が最新課題の概念や方法論を学ぶサマーコースや、実験技術の講習会など、研究者、技術者が集まる企画を立ててもらいたい。人が電子研に集まることで、若手が電子研の実力を実感し、次を担おうとするものである。

5.研究所の名称
研究所の内容を直接的に表し、今のアイデンティティに合わせた所名変更もありうるが、ブランドとして定着している電子科学研究所という明快な名称を変えると失うものも多い。名称変更が必要とは感じないが、状況もあるので様々な観点から検討はしておかれたら良い。

4.ネットワーク型中核研究所としての将来展開

1.ネットワーク型拠点と5研究所アライアンスへの取り組み
5附置研の研究者同士のネットワーク基盤であるアライアンスと物質・デバイス領域共同研究拠点を活用して、評価できる成果をあげている。2つの事業とも、発表論文は増えており、分野あたりの論文数は他の研究所を抑えている。ネットワークやアライアンスは手段であって目的ではないと前より指摘されているが、今後もその線に沿った堅実な展開を示していただきたい。

2.グローバル展開の方向性
世界の大学、研究所は、かつてないグローバル化の真っただ中にあり、様々な試みをし尽くしてもなお不安が残るほど、変化は激しい。10年前に予想もしなかった国際化が現実になり、今後10年でさらに大きな変化が起こり得る。電子研は他の研究機関に劣らない努力を払い、欧米亜の大学、研究所と協定、交流、交換、派遣の各事業を行ってきている。それに加え、最近ベルギーより着任した若手日本人教授は、ベルギーにも研究の場を持つ、いわゆるクロスアポイントメント制度を実現した。これはグローバル化に向かう今の時代の人事として象徴的であり、極めて高く評価される。複数の教員が年間の1/4程度の期間、継続的に海外で研究し、海外の研究者も同程度電子研に滞在し、ボーダレスに研究展開するような体制を構築してもらいたい。これはなかなか研究科では実現できないことであり、電子研ならではのトライアルが期待できると考えられる。これに伴い外部評価委員会に外国人を含めることも工夫の対象になるだろう。

平成23年度外部評価委員会での提言について

平成23年に、以下の4つの項目について提言がなされ、確実にそれをフォローアップして研究所の発展に活用して欲しいと述べられている。

1.所内外との共同研究ネットワークについて
2.物質・光・生命・数理研究領域のこれまでの取り組みと複合ナノサイエンスの展開について
3.グリーンナノテクノロジー研究センターについて
4.研究所の運営について

上記に、平成27年度外部評価委員会として、我々の評価と提言を、研究活動、運営と人事、大学附置研究所としての在り方、ネットワーク型中核研究所としての将来展望、としてまとめた。その内容から、電子研は、平成23年度の提言に従って真摯な努力を展開し、予期以上の実りある成果を得ていると判断する。

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