日時 | 平成21年1月14日 15:00–16:00 |
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場所 | 電子科学研究所 1階セミナー室1 |
講演者 | 嶋本伸雄 先生 |
所属等 | 遺伝学研究所 構造遺伝学研究センター |
タイトル | RNA polymeraseにおけるコンフォーメーションによる活性の質的調節の分子的記述とその生理学的、進化的意義 |
概要 |
タンパク質のコンフォーメーションによる調節は、古くはアロステリック効果として酵素化学で提唱され、現在ではシグナル伝達機構の中心的な概念として確立されている。このモデルでは、コンフォーメーションは物質レベルで定義されており、特定の環境では均一のものとして扱われていて、この近似の上に現代の調節論は成立している。しかし、分子論に立てば、全ての分子が均一な化学的性質を持つとは限らず、確率的に複数のコンフォーメーションをとって細胞の生理に影響を与えることは可能である。このような機構は、化学的な記述では、同一の中間体から2つ以上の反応が並列して起きる分岐した機構と表現される。 遺伝子DNAの転写を司る細胞のRNA polymeraseの研究の特徴は、ほとんど全ての生物学的、生化学的、生物物理学的、構造生物学的手法が投入されたことである。分子内の多くのheliceやsheets等のドメインの機能が同定され、分子内部の動きと活性、生物学の根幹とも言うべき選択性の起源などが提唱されていることである。遺伝子発現の最上流に位置する酵素であり、原核生物であっても真核生物であっても構造が類似していて、機構の本質は同じと考えられ、アクチンミオシンより強い力を生む分子モーターでもある。1塩基ずつ合成する機構については、ブラウニアンラチェットという機構がコンセンサスとなっており、これは、ルースカップリングが広く公認されている唯一の酵素である。化学や工学としては、ナノマシンとして次世代化学の標的として評価され、近年のノーベル化学賞の対象ともなった。つまり、分子的に最も良く研究されているだけでなく、適切な複雑さを持ち、生理的な影響も大きな酵素である。 我々は、全ての精製されたRNA polymeraseがおこなう短鎖RNAの合成反応が、生理的に意味を持つ長鎖RNA合成の確率的失敗ではなく、合成の調節機能に必須の副産物であり、組成は同一でも機能が異なる分子が存在することを見いだした。生物がこの機構を利用して、遺伝子発現のレベルを、栄養状態やUV照射などの環境変化に応じて調節していることを発見した。この分岐機構の生理学的、進化的意義をふくめて、分子コンフォーメーションが細胞生理に顔をだしているこの例を説明したい。 |
連絡先 | 小松崎民樹 北大電子研・分子生命数理研究分野 (内線 9434) |
News & Events
RNA polymeraseにおけるコンフォーメーションによる活性の質的調節の分子的記述とその生理学的、進化的意義
掲載日:
講演会