日時: | 平成23年9月29日(木) 10:00~11:00 |
---|---|
場所: | 北海道大学創成科学研究棟5階大会議室 |
約12年前に日本の研究グループによって微小ジョセフソン接合を含むアルミニウム超伝導回路における巨視的量子コヒーレンスが発見されて以来、超伝導量子回路を用いた量子情報処理の研究、いわゆる超伝導量子ビットの研究は長足の進歩を遂げた。量子情報処理分野で先行する 原子・光子 系と比較すると、超伝導量子回路系の特徴は その制御・測定が比較的容易なこと、cavity QED実験で必須となる強結合条件もまた容易に実現できることが挙げられる。これらの特徴は、この系がチップ上の回路でありmK 温度領域にまで冷却する必要はあっても、電気回路的には制御装置や 測定装置に直接つなげられるような巨視的量子系であることに起因している。
ところが近年、この強結合性や制御性の容易さが 諸刃の剣 であり、系のフィデリティーの減少やデコヒーレンスの大きな原因ではないかと考えられるようになって来た。実際、回路中に偶然生じたミクロな欠陥等に起因する量子二準位系をもう一つの量子ビットとして扱うことも可能であり、条件によっては、本来の量子ビットよりも長寿命な例も観測されている。
新たな試みとして、超伝導回路の高速制御性と原子系の特徴である長寿命量子コヒーレンスを融合させようという提案や実験が注目 されている。米国やフランスのグループは、ダイヤモンドの NV 中心や ルビーの Cr3+ 原子欠陥を超伝導共振器を介して超伝導量子ビットと結合させる研究を開始しており、既に超伝導共振器との強結合を確認したと報じている。双方とも、共振器中に光子数状態を形成し結晶中のスピンアンサンブルと強結合させることを狙っている。
一方、磁束量子ビットを使えば、共振器の場合に比べて3桁以上強く結晶中のスピンアンサンブルと結合できるため、超伝導量子ビットが演算部分を担い、結晶中のスピンが量子メモリーの役割を担うハイブリッド型の量子プロセッサを目指すにはより適していると考えられる。