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触覚知覚の脳内メカニズム

掲載日:
講演会
日時 5/14 (木), 16:00 – 17:00
場所 電子研 1F 会議室
講演者 村山 正宜, Ph.D. (Masanori MURAYAMA)
所属等 理化学研究所 脳科学総合研究センター (理研 BSI), 行動神経生理学研究チーム チームリーダー
タイトル 触覚知覚の脳内メカニズム
概要

皮膚からの情報は脊髄や視床を介し大脳新皮質の第一体性感覚野(S1)に到達し、さらにより高次な脳領域に伝わります。ではこの情報の流れの中で、いつ、我々は皮膚情報を知覚するのでしょうか。従来の仮説では、脳内で生成された神経活動(内因性トップダウン活動)と、外界の情報(外因性ボトムアップ活動)とが脳のある領域で組み合わさる(連合する)ことで我々は知覚すると考えられてきました。トップダウン情報には注意や予測、モチベーションなどの高次な情報が含まれていると考えられています。ところがこの仮説では、我々は何かに注意しなければ、「なにも感じない」という事にもなります。実際に我々は、ボ~っとしているような注意をしていない場合でも知覚は可能です。つまり、従来の仮説では、我々の実体験を十分に説明できませんでした。このように、これまで知覚を形成するための基本回路とそのメカニズムは全く分かっていませんでした。

我々はマウスを用いて、肢への刺激に対する神経活動を単一神経細胞レベルから回路レベルで測定、また動物が課題中の行動を解析しました。その結果、従来考えられていた内因性トップダウン活動と外因性ボトムアップ活動の時間的な連合は皮膚感覚野では観察されず、その代り、皮膚情報を運ぶ外因性ボトムアップ活動が第一体性感覚野からいったん高次脳領域に送られ、次にその領域からのトップダウン情報が再び第一体性感覚野に自動的にフィードバックされる反響回路を発見しました。この感覚刺激由来のトップダウン活動をここでは外因性トップダウンと呼びます。我々は解剖学的・生理学的手法を用いることで、この外因性トップダウン入力は、従来提唱されていた連合入力(内因性トップダウン入力+外因性ボトムアップ入力)と同等な機能を有していることを発見しました。この外因性トップダウン入力を光遺伝学的に抑制したところ、マウスは正常な知覚行動を行うことができなくなりました。この結果は、皮膚情報由来のトップダウン情報はマウスの正常な知覚に必須であることを示します。また、知覚が発生するタイミングは、外部情報が感覚野に伝わり、高次領域を介して再度感覚野に戻ってきた時間、またはそれ以降であることを示します。我々が発見した新たな知覚回路は、我々が注意なしに外界の知覚を可能にする基本回路になっている可能性が考えられます(Manita et al., Neuron in press)。本講演ではこれら研究結果の詳細について議論したいと思います。

連絡先 光細胞生理研究分野 飯島 光一朗、根本 知己 011-706-9362 (内 9362)
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