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励起子ポラリトン系における平衡と非平衡をつなぐ理論

掲載日:
講演会
開催日:
日時 平成29年9月15日 (金) 15:30–16:30
場所 電子科学研究所 1階 セミナー室1-2
講演者 山口 真 特任講師
所属等 東海大学
タイトル 励起子ポラリトン系における平衡と非平衡をつなぐ理論
概要

半導体に適当な波長のレーザー光(励起光)を照射すると、価電子帯の電子は伝導体に励起され、励起電子とその抜け孔である正孔は、Coulomb力により励起子と呼 ばれる束縛状態を形成する。この励起子は光を放出して再結合し、その光が再び励起子を生成する。このような過程で形成される励起子と光子の複合準粒子は励起子ポラリトンと呼ばれる。近年、GaAs やCdTeなどの材料系の結晶成長技術の進展により、半導体量子井戸を共振器(2つの反射鏡)の中に埋め込んだ構造(図1)が作製され、そこでの励起子ポラリトンの振る舞いが注目されている。このような系に励起光を照射すると、励起子ポラリトンの密度が増えていくが、その過程で励起子ポラリトンを構成する電子、正孔、光子は、お互いの相互作用に起因して様々な興味深い特徴を示す。

図 1 : 励起子ポラリトン系の模式図

まず、密度が増えてくると熱平衡統計力学に基づいて励起子ポラリトンのBose-Einstein凝縮(BEC)が起こる。この変化により観測される発光強度は大きく増大する。この点は第1閾値と呼ばれる。さらに密度を上げていくと、再度、光強度が急激に増加する領域—第2閾値—が存在する。従来、この第2閾値は励起子ポラリトンの構成粒子である励起子が電子と正孔に分解することで、非平衡状態である半導体レーザーへ移行する現象と解釈されてきた。しかしながら、励起子の乖離によって非平衡性を生じるという論理には必然性がない。このため、第2閾値の起源としては、熱平衡状態を維持したまま電子や正孔のFermi粒子性が高密度領域で顕在化し、これらが”Cooper対”を組んで凝縮している可能性、つまり、超伝導のようにBardeen-Cooper-Schrieffer(BCS)状態のような秩序相が生じている可能性も指摘されてきた。

このように励起子ポラリトン系はBECやBCS状態、さらにはレーザー発振に至るまで様々な現象と密接なつながりをもっているが、これまでこれらを統一的に記述する理論は存在しなかった。その大きな理由の一つには、BECやBCS状態が熱平衡統計力学に基づく相転移に従って生じる現象であり、その原理は半導体レーザーとは大きく異なるためである。その結果、多くの場合熱平衡状態であるBECやBCS状態と、非平衡現象である半導体レーザーの理論は別々に展開され、これらの関係性を議論することができなかった。このような背景の中、我々はこれまでBECやBCS状態、半導体レーザーを1つの理論的枠組みで取り扱う理論を提案し、第2閾値の起源について議論してきた。本講演ではその概要について紹介する。

主催 電子科学研究所学術交流委員会
連絡先 北海道大学 電子科学研究所 光システム物理研究分野
酒井恭輔、笹木敬司((内)9394)
備考等 後援: 応用物理学会 北海道支部会
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