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研究内容

生命の設計図DNAは「いい加減な」状態で収納されていた

掲載日:
コヒーレント光研究分野

北海道大学電子科学研究所コヒーレント光研究分野の西野吉則教授は国立遺伝学研究所の前島一博教授らと共同で、大型放射光施設SPring-8の強力なX線を用いて、生命の設計図DNAは規則正しく束ねられておらず、かなり「いい加減な」状態で収納されていたことを解明しました。DNAは直径2ナノメートルの細い糸で、ヒストンと呼ばれる糸巻きに巻かれて、直径約11ナノメートルのヌクレオソーム線維を作ります。1976年、イギリスのクルーグ(1982年ノーベル化学賞受賞)らは、このヌクレオソーム線維がらせん状に規則正しく折り畳まれて、直径約30ナノメートルのクロマチン線維ができると提唱しました。現在広く受け入れられている定説では、染色体は、このクロマチン線維が、らせん状に巻かれて100ナノメートルの線維をつくり、つぎに200-250ナノメートル、さらには500-750ナノメートルのように、規則正しいらせん状の階層構造を形成するとされてきました。実際、分子生物学の最も有名な教科書である「細胞の分子生物学」や高等学校の生物IIの教科書にもこの定説が記載されています。

今回、研究グループは、この定説を覆す結果を得ました。まず、直径約30ナノメートルのクロマチン線維の証拠の一つとされてきたX線散乱に現れるピークが、染色体の本体ではなく、染色体の表面に付着したリボソームによることを突き止めました。さらに、西野らが独自に開発した超小角X線散乱装置を用いることで、従来は測定が難しかった、1マイクロメートルほどの大きさをもつ染色体の全ての長さスケールにわたるX線散乱測定が可能になりました。この結果、定説から予想される約100ナノメートルや約200-250ナノメートルなどの線維の存在を示す散乱ピークは観察されませんでした。今回の一連の結果は、定説のモデルにあるクロマチン線維も、クロマチン線維がさらに規則正しく束ねられた高次の構造も存在しないことを示しています。

本研究成果は、国立遺伝研 前島一博教授、理研・播磨研究所 石川哲也主任研究員、城地保昌研究員(現高輝度光科学研究センター)、伊藤和輝協力研究員(現リガク)、高橋幸生基礎科学特別研究員(現大阪大学)、理研・基幹研究所 今本尚子主任研究員、国立遺伝研 高田英昭学振特別研究員(現大阪大学)、日原さえら氏(総研大)、ドイツEMBL Mikhail Eltsov博士、Achilleas Frangakis博士との共同研究です。文部科学省XFEL利用推進課題、JST・CREST「コヒーレントX線による走査透過X線顕微鏡システムの構築と分析科学への応用」、文部科学省科研費・新学術領域「遺伝情報場」「少数性生物学」の支援を受けました。

本研究成果は、『EMBO Journal』誌に4月4日付(電子版2月17日付)で公開されました。”Human mitotic chromosomes consist predominantly of irregularly folded nucleosome fibres without a 30-nm chromatin structure”, Y. Nishino, M. Eltsov, Y. Joti, K. Ito, H. Takata, Y. Takahashi, S. Hihara, A.S Frangakis, N. Imamoto, T. Ishikawa, and K. Maeshima, The EMBO Journal 31, 1644-1653 (2012).

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図1 ヌクレオソーム線維(赤い線)が染色体の中に不規則に収納されている。染色体には、コンデンシン(青色)やトポイソメラーゼIIという蛋白質が軸のように存在する。
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図2 (A)染色体に対して、SPring-8のBL29XUで超小角X線散乱測定を行った。染色体直径に相当する1マイクロメートルまでの範囲を調べたところ、定説で予想される、約100ナノメートル、約200-250ナノメートルの散乱ピークは観察されなかった(B)。

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