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研究内容

微弱な光の状態を、最も精度よく推定する新しい方法(適応量子状態推定)を実現!

掲載日:
光量子情報研究分野

北海道大学電子科学研究所の竹内繁樹 教授,岡本 亮 助教らは,「光の量」が限られた中で最も精度良く光の状態を推定する新しい方法(適応量子状態推定)を初めて実験的に実証しました。

光は光子という素粒子の集まりです。光子は、古典力学的な”粒”とは異なり、異なる状態の「重ね合わせ」状態注1)をとります。状態を1回測定すると、それら異なる状態の何れかとして検出されるため、1回の実験では、どのような「重ね合わせ状態」にあるかを知ることはできません。そのため、できるだけ少ない回数の測定によって、正確にその状態を推定することは、量子情報技術注2)はもちろん、生体光計測などにおいても非常に重要です。この問題に対して、光子などの量子1つ1つの計測結果に応じて毎回「測定方法」を最適化する、適応的な推定の数学的な理論(適応量子状態推定)が電機通信大学の長岡浩司教授らによって提案され、大阪大学の藤原彰夫教授らによって、その最適性(強一致性、漸近有効性)が数学的に証明されていました。

今回、藤原彰夫教授らと共同で、この「適応量子状態推定」の実証に、光子を用いて初めて成功しました。実験では、パラメトリック下方変換注3)を用いた伝令付き単一光子源注4)から射出された光子を、ある特定の直線偏光状態に準備し、その偏光角度の推定を行いました。光子300個に対する測定を500 回繰り返し行い、その実験データを解析した結果、適応量子状態推定の最適性(強一致性、漸近有効性)を厳密に確認しました。この適応量子状態推定は、光子に限らず電子や原子核といった全ての量子的な物理系に対して用いることができます。さらに、従来法の量子状態トモグラフィー注5)よりも効率的な状態推定が可能なことがわかっており、今後、量子情報処理・通信や量子メトロロジー注6)といった広い領域にわたって役立つことが期待されます。

[1] R. Okamoto, M. Iefuji, S. Oyama, K. Yamagata, H. Imai, A. Fujiwara, and S. Takeuchi, Physical Review Letters 109, 130404 (2012)

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図1.光子を用いた適応的な量子状態推定。光子1つ1つの測定結果に対して測定系を最適化。

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図2.適応量子状態推定結果。光子300個に対する測定を500 回繰り返し行ったもの。全ての推定結果が、真の値(60度)に近づいていっているのが分かる。

用語解説

注1) 重ね合わせ状態
量子力学では、二つの異なる状態を同時にとることが可能で、それを量子重ねあわせ状態と呼びます。例えば、1つの電子が別々の場所に同時に存在することができます。
注2) 量子情報技術
重ね合わせやもつれ合いといった量子力学の不思議な性質を利用して古典的にはできない情報処理を行うことです。古典よりも本質的に高速な計算が可能な量子計算や、物理法則により盗聴を防ぐ量子暗号等が含まれます。
注3) パラメトリック下方変換
1つの光子と物質の非線形な相互作用によって、1つの光子が2つの光子に変換されることです。このとき、変換の前後で光子の持つ運動量とエネルギーが保存されます。変換された2光子は対をなして同時に発生します。
注4) 伝令付き単一光子源
パラメトリック下方変換過程によって発生する2光子は対で同時に発生します。従って、片方で光子が検出された場合、もう片方にも単一光子が存在することになります。そこで、片側での光子の検出信号を伝令信号として用いることで、伝令付きの単一光子状態生成が可能です。
注5) 量子状態トモグラフィー
実験的な観測結果から、量子状態を再現する方法のことです。
注6) 量子メトロロジー
古典的な物理系(レーザー光等)を用いた計測技術には、その感度に標準量子限界と呼ばれる限界が存在します。一方、量子的な物理系を用いた場合、そのような古典的な限界を超えられることが知られており、そのような量子的な計測技術を量子メトロロジーと呼びます。
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