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研究内容

世界で初めて,生きた脳超深部·海馬の「そのまま」の観察に成功

掲載日:
光細胞生理研究分野

問い合わせ先

北海道大学総務企画部広報課

〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目
TEL 011-706-2610 FAX 011-706-4870

東北大学総務部広報課

〒980-8577 仙台市青葉区片平2丁目1-1
TEL 022-217-4816 FAX 022-217-4818

研究成果のポイント

  • 新しいレーザー装置を用いた多光子励起レーザー蛍光顕微鏡を開発。
  • 生きたマウス脳の世界最深部の断層観察に成功し,世界で初めて海馬の「そのまま」の観察に成功した。
  • この顕微鏡はがん検査や治療などの新しい医療技術に発展する可能性が高い。

研究成果の概要

北海道大学と東北大学では,新規近赤外超短光パルスレーザーを用いた多光子励起レーザー顕微鏡システムを開発し(図1),世界で初めて,生きた状態のマウスの海馬CA1領域及び大脳新皮質全層を同時に観察することに成功しました(図2)。これにより海馬という記憶にとって欠くことのできない重要な脳部位を,大脳新皮質などの他の部分を全く破壊することなく動物が生きている「そのまま」の状態で,観察できる方法が確立されました。このことは,私たちの記憶のメカニズムの研究のみならず,深部のがんの観察・検査などといった医学応用の展開も期待されます。

論文発表の概要

研究論文名 Visualizing hippocampal neurons with in vivo two-photon microscopy using a 1030 nm picosecond pulse laser(1030nmピコ秒パルスレーザーを用いたin vivo2光子顕微鏡によって海馬の神経細胞を可視化する)
著者: 氏名(所属) 川上良介1,2,5, 澤田和明2, 佐藤綾耶3,5, 日比輝正1,2,5, 小澤祐市4,5, 佐藤俊一4,5, 横山弘之3,5, 根本知己1,2,51北海道大学電子科学研究所, 2北海道大学大学院情報科学研究科, 3東北大学未来科学技術共同研究センター, 4東北大学多元物質科学研究所, 5科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業)
公表雑誌 Scientific Reports(Nature姉妹紙)
公表日 日本時間(現地時間) 2013年1月24日(木)午後7時(英国時間2013年1月24日午前10時)

研究成果の概要

背景

従来のレーザーを用いた顕微鏡では,最も深い部位が観察できる脳組織の場合でも,最大でも脳表面から0.7 mm 程度までしか観察できていないため,脳深部の海馬などの生命維持に不可欠な部分を観察することが可能な顕微鏡の開発が望まれていました。また従来は,海馬領域を観察する際には,細長い針状の特殊な対物レンズや透明のチューブを脳の大脳新皮質に直接挿入するなど破壊的な処理が行われており,海馬の上に乗っている新皮質の部分に外的な障害を与える可能性を回避することができませんでした。

研究手法

我が国が得意とする半導体レーザーの技術をベースにして構築した新しい近赤外超短光パルスレーザーを用いて,新しい多光子励起レーザー顕微鏡システムを開発しました。従来用いられてきたレーザー光源と比較して,コンパクトでかつ動作が極めて安定であるため,操作が容易であり,得られる断層画像の画質も非常に高いという特徴がありました。

研究成果

新しい多光子励起レーザー顕微鏡装置を用いることで,生きたマウス脳で,脳表から約1.4mm という世界最深部まで観察することに世界で初めて成功しました。マウスが生きている「そのまま」の状態で,大脳新皮質全層と海馬領域の神経細胞(海馬CA1 ニューロン)を画像化することができたという,世界で初めての報告です。これにより,大脳新皮質の各層における情報の流れを可視化することに加えて,「記憶」という極めて重要な脳機能を担っている海馬領域の神経活動やその障害の解明を可視化するための方途が新たに開拓されたという重要な意味を本研究は持っています。

今後への期待

この方法は,脳以外の臓器にも使うことが可能である上に,装置全体のサイズも非常に小型になっていることから,臨床検査などの現場で使用する可能性も非常に期待されるものとなりました。従って,色々な疾患,例えば,がん検査や治療,薬物の体内動態などを解明するための新しい医学・臨床技術として役立つことが期待されます。日本の得意とする光技術と生命科学の融合が大きな成果をもたらした好例であり,新たな学術研究と産業分野創成を開拓する象徴といえます。

本研究は,JST の戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の支援を受け,北海道大学電子科学研究所 根本知己教授,東北大学多元物質科学研究所 佐藤俊一教授,東北大学未来科学技術共同研究センター 横山弘之教授により共同で実施されました。

お問い合わせ先

所属・職・氏名:
北海道大学電子科学研究所 教授 根本 知己(ねもと ともみ)
TEL:011-706-9362 FAX:011-706-9363 E-mail:tn@es.hokudai.ac.jp

 

東北大学多元物質科学研究所 教授 佐藤 俊一(さとう しゅんいち)
TEL:022-217-5146 FAX:022-217-5146

※この情報は,北海道教育庁記者クラブ,科学記者会,文部科学記者会,宮城県政記者会,東北電力記者会加盟各社へ提供しています。

参考図

2012-12-21-mcb-01 図1:新しく開発した多光子励起レーザー顕微鏡システム。a)概略図,b)臓器深部観察を可能とするための小動物保定具
2012-12-21-mcb-02
図2:マウス大脳新皮質全層と海馬の「そのまま」イメージング。断層像を取得後,コンピューターで三次元再構築を行った画像。今まで観察できなかった脳深部の新皮質と海馬CA1領域の神経細胞の詳細な画像を得ることができた。海馬は進化的には「古い脳」であり,生命活動に不可欠な短期記憶の形成に関わっている。ここに障害が発生すると,数時間前の記憶のみが失われる。このような記憶障害の発生の機構の解明や治癒に向けた研究に対しても,今回の顕微鏡法は重要であると考えられる。2012-12-21-mcb-03
図3:海馬の解剖学的な位置。The Synaptic Organization of the Brain, Ed: Gordon M. Shepherd, Oxford University Press (2003)より
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