生命科学に関する国際共同研究を支援する国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP、用語説明)推進機構(本部:フランス・ストラスブール)は3月25日、優れた研究テーマに与える2013年のプログラムグラント受賞23テーマを発表。北海道大学電子科学研究所(三澤弘明所長)分子生命数理研究分野の李振風准教授の受賞が決まった。受賞内容は、植物の形態発生の背後に存在する調整機構に関するもので、細胞レベルでは分裂過程に含まれる欠損や過剰発現など様々な確率的要素が存在する一方、なぜ組織レベルでは一定の決まったサイズや形がほぼ常に獲得されるかを解明する研究。応募数715件から23件が選ばれた。日本の研究機関に所属する受賞者は6人で数学・数理科学は李准教授のみ、ほか5人は生命科学の研究者。
多くの組織は首尾一貫して決まった形態を取ることが知られているが、細胞レベルでは細胞の成長および形態は非常に変動し得る。李准教授らは発生生物学における根本的な問題である「細胞レベルでの確率的変動がありながら、どのように組織は最終的なサイズや形にたどり着くのか?」の解明に挑戦する。李准教授は実験研究者との共同研究を通じて、細胞間相関の空間-時間パターンの抽出、とりわけ細胞の確率性を制御する調整機構を探索し、情報理論的手法に基づいた新たなデータ駆動型のモデリング法を開発する。
研究チームを率いるのは(電子科学研究所が学術協定を締結している)フランス・リヨン高等師範学校のシステム生物学者であるArezki Boudaoud教授で、同教授のグループは原子間力顕微鏡(AFM)を用いた細胞壁弾性の計測、および、機械的シグナルに関連した調整機構の分析を担当する。米国・コーネル大学の植物遺伝学・発生学の専門家であるAdrienne Roeder助教はライブイメージングによる成長データの取得と、器官形態の多様性を多く保有する変異体のスクリーニングを担当する。スイス・ベルン大学のRichard S. Smith助教は計算科学者かつ3Dイメージングの専門家で、システムとシグナル伝達を統合し、細胞力顕微鏡を用いた膨圧の計測および、局所的な器官の成長を正確に示す細胞ベースのモデルの開発を担当する。
これまでの研究では平均的な細胞挙動のみを対象としていたため、局所的な不均一性や確率的な多様性の効果を見落としていた。したがって、組織全体がそのような細胞環境での確率性、不均一性を如何に克服・調整し、最終的なサイズや形態を獲得しているのかは、依然として解明されていない。本研究チームは、このような細胞及び組織レベルでの明らかな矛盾の解明に挑む。
今回の受賞は北海道大学電子科学研究所から4人目(参考資料参照)。これは全国的にみても群を抜いて高い獲得数で、理化学研究所(14件)、東京大学(9件)に次いで全国で3番目である。加えて、電子科学研究所の場合、大学附置研の一研究所(スタッフ数66名(学術研究員、技術補助員等を除く、教授、(特任)准教授、(特任)助教、博士研究員の人数))で4件全て獲得しているため、理化学研究所(6研究所で14名受賞。9名の受賞者を輩出しているRIKEN Brain Science Instituteはスタッフ数306名)や東京大学(8学科、1研究所で9名受賞)の規模と比較するとその獲得率は特筆に値する。また、過去10年間で2件以上プログラムグラント賞を獲得している大学・研究機関の採択課題38件のうち、数学・数理科学系の分野での採択件数は北海道大学電子科学研究所の4件を除くとわずかに1件のみである。このことは、数学と諸分野の協働に重点を置く北海道大学の特色とその世界的な認知度を端的に示しており、分子から細胞、そして脳などの高次生命現象の現代生物学に対する数学・数理科学からの寄与として北海道大学電子科学研究所、数学連携研究センターが日本で中核的な存在であることを物語っている。
プログラム名 | From stochastic cell behavior to reproducible shapes: the coordination behind morphogenesis |
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チーム | 李振風准教授(北海道大学電子科学研究所、北海道大学数学連携研究センター兼務)、Arezki Boudaoud教授(フランス・リヨン高等師範学校・植物再生発生学科/Joliot-Curie研究所), Adrienne Roeder助教(米国・コーネル大学・細胞分子生物学Weill 研究所、植物生物学科), Richard S. Smith助教(スイス・ベルン大学・植物科学研究所) |
助成期間 | 2013~2015年 |
助成金 | 450,000 米ドル/年(総額1,350,000 米ドル) |
用語解説 |
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プログラム名 | Deliberative decision-making in rats |
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チーム | 津田一郎教授(北海道大学電子科学研究所、北海道大学数学連携研究センターセンター長)、A. David Redish教授(米国・ミネソタ大学神経科学科),Paul Dudchenko教授(英国・Stirling 大学心理学科・認知神経システムセンター), Jan Lauwereyns教授(ニュージーランド・Victoria University of Wellington心理学科), Emma Wood教授(英国・エジンバラ大学・認知神経システムセンター) |
助成期間 | 2010~2012年 |
助成金 | 450,000 米ドル/年(期間合計1,350,000 米ドル) |
プログラム名 | Dynamical coordination in a multi-domain, peptide antibiotic mega-synthetase |
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チーム | 小松崎民樹教授(北海道大学電子科学研究所、北海道大学数学連携研究センター兼務)、Henning Mootz教授 (ドイツ:Munster大学生化学科), Haw Yang 准教授(米国:プリンストン大学化学科) |
助成期間 | 2010~2012年 |
助成金 | 350,000 米ドル/年(期間合計1,050,000 米ドル) |
プログラム名 | Optimization in natural systems: ants, bees and slime moulds |
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チーム | 中垣俊之准教授(北海道大学電子科学研究所)、David Sumpter教授 (スエーデン:ウプサラ大学数学科)、Madeleine Beekman教授 (オーストラリア:シドニー大学生物科学科)、Martin Middendorf教授 (ドイツ:ライプチッヒ大学計算機科学科) |
助成期間 | 2007~2009年 |
助成金 | 450,000 米ドル/年(期間合計1,350,000 米ドル) |