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研究内容

生体分子機械の完全光制御に成功

掲載日:
スマート分子材料研究分野

北海道大学電子科学研究所の玉置信之教授と大学院生のK. R. Sunil Kumarと亀井敬助教、および深港豪助教は、生体由来の分子機械の動きを光刺激により完全かつ繰り返し制御することに初めて成功しました。この研究成果は、2014年3月31日付でアメリカ化学会「ACS Nano」誌にオンライン出版されました1)

われわれのからだの中では、ナノメートル(0.000000001m)サイズの機械、いわゆる分子機械が活躍しています。その生体由来の分子機械を生体外に取り出し、その働きを人の手で制御できれば、従来の固く嵩張る機械とは異なる “しなやかでコンパクトな機械” を、新たに人が利用できることにつながります。これまでに、生体の分子機械を取り出してその働きを計測する手法は確立されてきましたが、その働きの人工的な制御についての研究は不十分でした。

生体由来の分子機械の一つであるキネシンは、微小管という直径25ナノメートル、長さ数ミクロンのチューブ状のレールの上をナノサイズの荷物を背負って歩きます。その際のエネルギー源は、酵素でもあるキネシンを触媒とするATP(アデノシン三リン酸)の加水分解反応で得られる化学エネルギーです。歩く速さは、毎秒1ミクロン程度です。

本研究グループは、光刺激によってその働きがスイッチされる阻害剤を新たに合成し、それをキネシンに加えることで、キネシンの運動活性を好きなときに自由に光制御できることを見出しました。

実験系では、まずキネシン分子をガラス基板表面に固定し、その上に蛍光標識した微小管を吸着させます。そこに、エネルギー分子であるATPと合成した光応答性阻害剤を添加します。光照射前には、阻害剤の働きにより、ATPが存在しているにもかかわらずキネシンが運動しません(キネシンが働くと微小管が動くのが見えます)。そこに紫外光を照射すると、阻害剤の分子構造が変化し、キネシンの働きで微小管が動きます。続いて、青色光を照射すると阻害剤の分子構造が元に戻り、微小管の動きが止まりました。この変化は何度でも繰り返すことが出来ました。

今回の研究成果は、人が生体内の分子機械を利用するための第一歩であると考えられます。今後は、集光した光を使って一定の場所のキネシンだけを働かせたり、光を走査することで働くキネシンの場所を自由に変化させたりできることを証明し、ナノ物質移動などの実際の応用を示していく必要があります。

1) “Complete ON/OFF Photoswitching of the Motility of a Nano Biomolecular Machine”, K. R. Sunil Kumar , Takashi Kamei , Tuyoshi Fukaminato , and Nobuyuki Tamaoki, ACS Nano, 2014, DOI: 10.1021/nn5010342

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図 光応答性阻害剤によって制御されるキネシン-微小管の運動を示した模式図。紫外光と可視光の照射により、それぞれ “go”状態と “stop” 状態が達成される。キネシンは基板に固定されているため、キネシンの運動により本来はレールとなる微小管が動く。

動画は、蛍光顕微鏡で観察した微小管の動き。キネシンとATPの働きにより動いている。紫外光照射:1秒(約1W/cm2)、青色光照射:1秒(約40W/cm2)、観測時間:各狀態で20秒間、合計5分間

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