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研究内容

室温で赤外線透過率と導電率を同時に制御可能な全固体薄膜デバイスを実現 —スマートウィンドゥ実現に向けて大きく前進—

掲載日:
薄膜機能材料研究分野

北海道大学 電子科学研究所は、赤外線透過率と電流を同時にスイッチ可能な全固体薄膜デバイスの開発に成功しました(図1)。

光透過率と導電率を同時にスイッチするためには、エレクトロクロミック材料が必要です。エレクトロクロミック材料として、飛行機の窓に応用されている酸化タングステン(WO3)が知られていますが、WO3はエレクトロクロミズムにより、赤外線透過率と同時に可視光透過率も減少してしまうため、赤外線透過率のみのスイッチングには不適な材料と言えます。

本研究チームは二酸化バナジウム(VO2)に着目しました。VO2は 68°Cで単斜晶⇔正方晶の構造相転移を伴う金属―絶縁体転移と同時に赤外線透過率のみが大幅に減少するサーモクロミック材料として知られています。不純物を全く含まないVO2は、室温では絶縁体であり、可視光・赤外線を透過しますが、プロトン化することで金属化し、赤外線だけを遮断することが可能です。VO2のプロトン化・脱プロトン化を利用すれば可視光は透過したまま、赤外線だけを透過・遮断可能な機能性調光ガラスが実現可能ですが、VO2のプロトン化には、水素雰囲気下での高温熱処理や、電解液中における電気化学処理が必要という問題がありました。

本研究チームは、スポンジのように水を含むナノ多孔質ガラス(CAN)[文献 1]をゲート絶縁体としてVO2薄膜に貼りつけた薄膜トランジスタ構造(図2)を作製し、室温でのゲート電圧印加によってVO2薄膜のプロトン化・脱プロトン化を試みました。正のゲート電圧を印加することで、CAN薄膜中の水を電気分解し、生成するH+をVO2薄膜中に電気化学的に導入することでプロトン化しました。このとき、VO2薄膜のシート抵抗と熱電能(絶対値)は劇的に減少(金属化)し、電子顕微鏡観察の結果、プロトン化前は単斜晶だったVO2が、プロトン化後には正方晶(HxVO2)に変化することが分かりました。プロトン化したVO2に、負のゲート電圧を印加したところ、脱プロトン化が起こって絶縁体に戻ることが分かりました。高温熱処理や電解液を全く必要としない、全固体薄膜デバイス作製に成功したと言えます。例えば、窓ガラスに応用することで、室温管理の邪魔者である赤外線の透過率と、エアコンなどの電気スイッチを、オンデマンド制御可能なスマートウィンドゥへの応用が期待できます。

本成果は、本研究所 薄膜機能材料研究分野の片瀬貴義 助教、太田裕道 教授と東京大学 総合研究機構の藤平哲也 助教、幾原雄一 教授との共同研究によって得られたものです。また、本研究成果の一部は、JSPS科学研究費基盤研究(A)(課題番号 25246023)、若手研究(A)(課題番号 15H05543)、及び新学術領域研究「ナノ構造情報」(課題番号 25106007)のサポートを受けて実施したものです。本成果は、独科学誌「アドバンスド・エレクトロニック・マテリアルズ」(電子版)に、2015年6月1日に公開されました。

著者: Takayoshi Katase*, Kenji Endo, Tetsuya Tohei, Yuichi Ikuhara, and Hiromichi Ohta*
題目: Room-temperature-protonation-driven on-demand metal-insulator conversion of a transition metal oxide (室温プロトン化による遷移金属酸化物のオンデマンド金属―絶縁体変換)
DOI: 10.1002/aelm.201500063
[文献1]H. Ohta et al., “Field-induced water electrolysis switches an oxide semiconductor from an insulator to a metal”, Nature Communications 1, 118 (2010)
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図1
赤外線透過率と電流を同時にスイッチ可能な全固体薄膜デバイスの模式図。正電圧を印可することで、VO2薄膜がプロトン化(HxVO2)して、赤外線を遮断すると共に電流が流れる(ON状態)が、負電圧を印可することで脱プロトン化し、赤外線を透過すると共に電流が流れなくなる(OFF状態)。
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図2
含水多孔質ガラス(CAN)をゲート絶縁体に用いたVO2薄膜トランジスタの模式図。ゲート電圧を印加することで、CAN薄膜中で水を電気分解し、生成するH+をVO2薄膜中に電気化学的に導入することでプロトン化する。右図は、プロトン化による単斜晶の絶縁体VO2から正方晶の金属HxVO2への構造変化を示す。
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