研究成果のポイント
- 金のナノアンテナで光をナノサイズまで絞り込む技術を開発(光ナノ集光)。
- 集光するナノスポットの位置を色によって変える実験に成功(ナノ虹形成)。
- 1万分の1ミリメートルサイズの虹を画像化する技術を開発(ナノイメージング)。
- 極微小カラー画像素子,波長多重通信デバイス,バイオセンサーへの展開を期待。
研究成果の概要
最先端超精密加工装置で特殊な形状に加工した金のナノ構造体(ナノアンテナ)によって,光を1 万分の1ミリメートルサイズまで絞り込むとともに,集光するナノスポットの位置を色によって自在 に変化させて,ナノサイズの虹を形成する実験にはじめて成功しました。また,数ナノメートル分解 能の超解像イメージング装置を開発し,ナノサイズの虹を画像化することにも成功しました。この研 究成果は,超小型カラー撮像素子,高速・大容量な波長多重通信用の光集積回路デバイス,超高感度 バイオ化学センサー,ナノ微粒子を自在に操るナノ光マニピュレーションなどへの応用が可能です。
論文発表の概要
著者: 田中嘉人,小松聖矢,藤原英樹,笹木敬司(北海道大学電子科学研究所)
公表雑誌: Nano Letters(米国化学会専門誌)
公表日: 米国東部時間 2015年9月15日(火) (オンライン公開)
研究成果の概要
(背景)
色には物質の特性が現れるため,有機物・半導体・金属などの材料の開発や化学反応・生命現象の解析に色の分析(スペクトロスコピー)は不可欠な技術です。最近,ナノ粒子などナノメートルサイズの材料の開発や生体分子一個一個の機能を解析する研究が進むにつれて,ナノスケールの色識別センサーの開発が期待されています。また,情報通信においても,光の色情報を利用して高速・大容量化を目指した波長多重通信の開発が進められており,光を色で分離して情報伝達する光集積回路デバイスが活発に研究されています。しかし,光の波の特性を利用して色を分類する従来のセンサーや通信デバイスでは,物理的な限界(回折限界)によって数十マイクロメートル(100分の1ミリメートル)より小さいサイズにすることはできませんでした。
(研究手法・成果)
今回の研究では,まず,最先端超精密加工装置で特殊な形状(ダブルギャップ)に加工した金のナノ構造体(図1)に光を当てることにより,光が金属に纏わり付く現象(プラズモン)を利用してナノ構造体の2つのギャップ(空隙)に光をナノメートルサイズまで絞り込みます。このとき,光を照射する角度を調整すると,2つのギャップに生成した電磁波が互いに干渉して,光の波の強め合い・弱め合いが起きます。光の色(波長)によって波が強め合う位置が異なるため,2つのギャップに違う色の光を分離して集光することができます。この実験では,2つのギャップの距離は90ナノメートル(1万分の1ミリメートル以下)ですが,さらに小さい金ギャップ構造体を作製することも可能です。
本研究では,さらに,数ナノメートルの空間における光の分布を色毎に画像化する超解像分光イメージング装置を開発し,光の色によって2つのナノスポットがオン・オフする様子を直接観測することに成功しました(図2)。色(図では波長で表示)が僅かに変化するだけで,スポットの明暗のコントラストが大きく変化することが明らかになり,また,光の照射角度を調整するとコントラスト変化を自在に制御できることがわかりました。さらに,この実験では2つのギャップのナノ構造体を使っていますが,ギャップの個数を増やすと複数の色が分類できることをシミュレーション解析により明らかにしています(図3)。7つのナノギャップ構造体で7色の光を分離してナノサイズの虹を作ることができます。
(今後への期待)
ナノサイズの空間で色を分類することができれば,ナノ粒子や生体分子個々の色分析(スペクトル分析)や化学反応・生命現象のセンシング解析が可能になり,材料科学・生命科学の研究開発に貢献することができます。また,情報通信分野においても,超小型カラー撮像素子,波長多重通信用の光回路デバイスの超集積化への応用が可能であり,次世代の情報通信デバイスの開発に展開することが期待されます。さらに,光のナノスポットを自在にオン・オフすることにより,ナノ空間で光が発生する力を制御してナノ粒子を自在に操る光マニピュレーション技術の実現にも道が拓かれます。
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