研究成果のポイント
- 生きたマウスにおいて皮膚深部を高い分解能で3次元的にライブ観察する方法を樹立。
- 表皮を維持する細胞が分裂する様子を観察・解析することに成功し、「ななめ方向」の細胞分裂を実証し、厚い皮膚ほど、その頻度が高いことを初めて明らかにした。
- 「ありのまま」の状態で、皮膚の深部構造や厚さを維持する様子を観察できることから、アレルギー反応など、生体防御機能、皮膚疾患の解明や薬の開発に役立つ可能性が高い。
研究成果の概要
表皮の厚さは,足の裏では厚く耳では薄いなど,身体の部位によって異なることが知られています。しかし,厚い表皮と薄い表皮の厚さを維持するためのメカニズムは,あまりよくわかっていませんでした。今回,北海道大学電子科学研究所の根本知己教授らは,最先端のレーザー顕微鏡技術を活用し、生きたマウスにおいて、皮膚の深部構造を高精度3次元ライブ観察する方法を樹立しました。薄い表皮を持つ背中と耳,厚い表皮を持つ足の裏と尻尾において、表皮の細胞を供給する基底細胞の分裂方向に着目し,厚い表皮ほど「ななめ」方向の分裂が多いことを初めて示しました。この方法は,生体に傷害を与えることなく,長時間の観察をすることが可能です。更に,この方法は遺伝子に一部欠陥のあるマウスモデルや,薬を投与したマウスの皮膚を細胞レベルでモニターすることが可能になることから,病気のメカニズムや治療法の開発も期待されます。
論文発表の概要
研究成果の概要
背景
皮膚の表皮は,生体防御の最前線の要の臓器です。特徴的な層構造を取っており,最も下層に存在する基底細胞だけが分裂することができます(図1)。分裂によって生まれた細胞は,徐々に表面へ向かっていき,やがて角化して垢となって剥がれ落ちていきます。このように表皮は,ターンオーバーすることによって維持されています。その一方で,表皮の厚さは,部位によって異なります。マウスの場合は,耳と背中は同じくらい薄く,足の裏や尻尾はかなり厚くなっています。表皮の厚さが違う部位では,厚さを維持のために違いがあるのかどうかは、知られていませんでした。加えて、皮膚を対象とした研究では、観察が容易なことから、耳で実験されることが多く,他の部位でほとんど行われていませんでした。
一方で,私たちは、ありのままの状態で、生きたマウスの体内を高精度で観察する最先端の顕微鏡技術(in vivoイメージング)の研究に取り組んで来ました。特に、最先端のレーザー顕微鏡を用いた観察方法は,生体深部でもあっても細胞レベルの高解像度で、かつ、経時的にモニターできるという優れた特徴があります。
研究手法
本研究では,2光子顕微鏡という最先端のレーザー顕微鏡を用いて、生きたマウスの皮膚の深部構造や細胞分裂を in vivo イメージングする手法を樹立し、身体の様々な部位で皮膚の構造を3次元解析することに成功しました(図2)。この方法は,生きたマウスの皮膚を傷つけることなく,厚い表皮でも深部まで観察することが可能です。
研究成果
本研究で樹立した皮膚のin vivoイメージング法を用いると,各部位の皮膚の深部で,細胞分裂を高精細に観察することができました。さらに、背中と耳の薄い皮膚では,分裂のほとんどが基底膜に平行に分裂していたのに対し,足の裏と尻尾の厚い皮膚では,ななめ方向に分裂している細胞が実存することを証明しました(図3)。そこで分裂方向を3次元的に解析した結果,表皮の厚さと,基底膜に対してななめ方向に分裂する頻度とは、相関することが明らかになりました。このことは表皮の厚さを維持するために,ななめ分裂が重要な役割を担っているかもしれないという重要な意味を示す結果です。
今後への期待
本研究によって,細胞分裂の方向が,表皮の恒常性維持を理解するために重要な鍵となることを示唆する結果が得られました。また,確立した観察方法は,生体に侵襲を与えることなく深部観察が可能なだけではなく,細胞内部構造などを高い空間分解能で観察することができます。これらの特徴は、更なる表皮の幹細胞の理解,皮膚がんや他の皮膚病モデルマウスを使って,直接皮膚の細胞をモニターすることにより,将来的には生体防御機能の理解、疾患の解明や治療の開発に応用できる可能性があると考えられます。
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