【賞の概要】
ナノ材料科学分野で世界的に権威ある英国王立化学会の学術誌「Nanoscale Horizons」では、その年に最も注目を集めた論文が「Most Popular Articles」として選出され、同誌ウェブサイトの特集ページにて発表されます。発表される論文は、論文の被引用数、ダウンロード数及びAltmetricスコア*1に基づいて選定され、同誌の編集委員会及び諮問委員会による科学的重要性と将来的なインパクトの評価を経て決定されます。
【受賞内容】
北海道大学電子科学研究所の高野勇太准教授らの研究グループが「Nanoscale Horizons」誌で報告した論文「Bio-catalytic nanoparticle shaping for preparing mesoscopic assemblies of semiconductor quantum dots and organic molecules(半導体量子ドットと有機分子によるメゾスコピック集合体を作り出すための生体触媒ナノ粒子成形法)」が、材料開発における革新的な手法として国際的な注目を集め、同誌の編集委員会及び諮問委員からも極めて高い評価を獲得したことにより、「Most Popular 2024 Articles」の一つとして選出されました。
なお、「Most Popular 2024 Articles」に選出された論文は以下のリンク先から閲覧可能です。
https://pubs.rsc.org/th/journals/articlecollectionlanding?sercode=nh&themeid=64d00a5e-00d1-4eba-808b-898334dc964b

【研究成果の概要】
本研究で開発された「生体触媒ナノ粒子成形法(BNS法;Bio-catalyticNanoparticle Shaping法)」は、酵素*2の働きを巧みに利用することで、従来は高度な技術と設備を必要としていたナノ材料の製造を簡便に実現する画期的な手法です。図1に示すように、特に約10~1000ナノメートル(人の髪の毛の約1/8000~1/80の太さ)の大きさを持つ「メゾスコピック粒子*3」と呼ばれる機能性材料を、簡便に均一なサイズで作製できることが特徴です。この大きさの粒子は、医療用材料から電子デバイスまで幅広い産業応用が期待されているものの、これまでは製造が困難でした。
【受賞者のコメント】
私達の研究グループは、2023年ノーベル化学賞の対象となった量子ドット*4をはじめとする機能性材料を、酵素の働きを利用して簡便に加工する方法を発見しました。このBNS法では、まず酵素で分解可能な連結部位を持つ大きな構造体を作り、これに特定の酵素を作用させることで、均一なサイズのメゾスコピック粒子を得ることができます(図1)。本手法は水を主な溶媒とする環境調和型のプロセス*5であり、特殊な装置を必要としない簡便な合成方法として注目されています。さらに、様々な原料を用いた機能性材料への応用が可能である点も特徴です。
BNS法は既に特許出願(特願2023-079183、PCT/JP2024/015035)されており、幅広い産業分野での実用化が期待されています。医療分野では血中滞留性*6の高い薬物キャリア*7として、電子材料分野では高分散性ナノ材料としてなどの応用が見込まれています。本技術の産業応用に関心をお持ちの企業からの問い合わせを歓迎しています。
お問い合わせ先
- 北海道大学電子科学研究所 准教授 高野勇太(たかのゆうた)
- TEL 011-706-9414
- FAX 011-706-9407
- メール tak[at]es.hokudai.ac.jp
- URL https://bijulab.main.jp/jp/
配信元
- 北海道大学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
- TEL 011-706-2610
- FAX 011-706-2092
- メール jp-press[at]general.hokudai.ac.jp
【参考図】

【用語解説】
*1 Altmetricスコア … 論文の注目度を示す新しい指標。SNSでの言及や、ニュース記事での引用など、従来の論文引用以外の影響力も含めて評価する。
*2 酵素 … 生物の体内で特定の化学反応を進める働きを持つタンパク質。例えば、食べ物の消化を助ける消化酵素などが知られている。本研究では、この酵素の特定の物質を分解する性質を利用している。
*3 メゾスコピック粒子 … 原子や分子の大きさ(ナノメートル未満)よりも大きく、普通の粒(マイクロメートル以上)よりも小さい、中間的な大きさ(10~1000ナノメートル)を持つ粒子のこと。この特殊なサイズにより、通常の物質とは異なる性質が期待できる。
*4 量子ドット … 非常に小さな半導体の粒で、粒子の大きさを変えることで発光色を自由に制御できる特殊な材料。2023年のノーベル化学賞の対象となり、次世代ディスプレイなどへの応用が期待される。
*5 環境調和型プロセス … 環境への負荷が少ない製造方法のこと。本研究では、有害な有機溶媒の代わりに水を使用し、生物由来の酵素を利用することで、環境に優しい製造方法を実現している。
*6 血中滞留性 … 薬などの物質が血液の中にとどまっている時間の長さを示す性質。血中滞留性が高いほど、薬の効果が長く持続する。
*7 薬物キャリア … 薬を必要な場所まで運ぶための運び役となる物質。体の中の特定の場所に薬を届けることで、副作用を減らし、治療効果を高めることが期待できる。